先日、私が住んでいる賃貸物件に設置されている、IHヒーターの上面のガラス面を割ってしまいました。炊飯器を強く置いてしまったのが原因ですが、まさか割れるとは思いませんでした。
経年劣化の場合の故障であれば、貸主の負担となりますが、誤って壊してしまった場合の費用負担がどうなるのかについて、体験談を交えながらお話しします。
こんな感じで派手にいきました・・・
費用負担論争のきっかけ
すぐさま、この賃貸物件の管理会社である不動産会社に連絡したところ、「経年劣化以外の破損は、原状回復の義務がある借主が全額負担となります」とのこと。(大体3万円程度)
契約書を見ると、確かに”故意・過失による破損は借主の負担”と書かれていました。(今回は明らかに過失です)※過失とは、わざと(故意)ではないが、不注意によるもの。
古い設備を壊してしまった場合に、新品に取り換える費用を借主が全額負担することに違和感を感じ、詳しく調べてみると、”借主の賠償範囲は現在価値の分だけでよい”とされていました。
大学院で少しは法律をかじっている身として、法的根拠を探して戦おうと決意しました。
税理士になった後も、国税に対しては、法的根拠で対抗していかなくてはならないのでその練習もかねて。
法的根拠
今回の場合、民法415条(債務不履行による損害賠償)に該当します。
また、損害賠償額は、民法416条(損害賠償の範囲)により、”通常生ずべき損害の賠償”と規定されています。
そして大事な”通常生ずべき損害”とはなにかというと、損害を受けた物の現在価値、すなわち会計でいうところの減価償却後の価値を基準にすることが一般的です。
※減価償却とは、物は経年劣化するという考え方に基づいて、時の経過によって価値を減少させる会計処理のこと。
これは、様々な判例で同様の判断がされているため、基本的にはこの解釈を用いることになります。
※判例とは、最高裁判決などで下された判断で、法律の解釈に用いられるもの。
今回のIHヒーターの場合、国税庁の耐用年数表を確認すると6年とされています。
※耐用年数が6年とは、6年で減価償却が終わる(価値がほとんど0になる)ということ。
国税庁 減価償却資産の耐用年数表より引用
今回のIHヒーターは、設置から14年経過していたため、減価償却が終わっており、現在価値は0に等しいと考えられます。
話が戻りますが、民法416条(損害賠償の範囲)により、借主(私)が賠償する額は、IHヒーターの現在価値である0ということになります。
全額負担しなければならない場合もある!
民法415条と416条は、任意規定であるため、民法より契約書の内容が優先されるため、注意が必要です。
法律には、強行規定と任意規定というものがあり、以下の違いがあります。
- 強行規定・・・強制的に適用する法律の規定
- 任意規定・・・法律について一定の定めはあるものの、それと異なる合意や定めをした場合、その合意や定めが優先されるという法律の規定
強行規定の例を挙げると、退職日の2週間以前に退職の意思を伝えた場合には、契約書の定めにかかわらず、退職することができるというもの。
いくら、契約書で3ヶ月以内に申し出なくてはならないと記載があっても民法の2週間前の申し出で問題ないということです。(本題とずれますので、割愛します)
今回は任意規定なので、契約書の内容をしっかり確認する必要があります。
私の場合は、”現状復旧”の費用は借主負担と記載されていたため、現状復旧→現在価値→0の負担でよいということになります。
一方で、借主の故意・過失により破損した設備は”新品交換”しなければならない旨が契約書に記載されている場合は、契約書が優先され、新品交換の費用を負担しなければならない可能性があります。
費用負担論争の結果
設備を壊してすぐに連絡した際には、不動産会社は「経年劣化以外の破損は、原状回復の義務がある借主が全額負担となります」と話していました。
その後、前述した一連の根拠を伝え交渉したところ、「現在価値とか関係なく原状回復義務があるので!交渉するのであれば貸主に書面で申し出てください!」と強く言われましたが、後日連絡があり貸主が全額していただけるとのことでこの費用負担論争は無事終結しました。
この費用負担の話は、退去の際の退去費用にも通ずる話なので、今回調べてみてよかったです。
ただ、壊したことに対する負い目もあると、不動産会社に費用を負担しろと言われたら負担してしまう方も多いと思います。
やってしまったことの反省はあっても、必要以上に弁償する必要はありません。(そのために法律があるわけです)切り分けて考えましょう。